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連載インタビューvol.14
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被災地を元気に!ベガルタチアリーダーズが迎えたホーム開幕戦
 
2011年4月29日――。プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスとサッカーJ1ベガルタ仙台は、ともに本拠地仙台で開幕戦を迎えた。宮城県はこの29日を「震災キックオフデー」とし、仙台市地下鉄を全線で復旧させた。またJR東日本も、東北新幹線を同日に全線で運転を再開した。

大型連休初日でもあるこの日は、奇しくも震災から四十九日目。仙台の街はひさびさに「ボランティア活動のため」ではなく、「スポーツを楽しむため」にも県外から大勢の観光客が集まった。また地元の人たちも厳しい現実から一瞬だけ離れて胸を躍らせ、少し前までは当たり前のように存在していた日常を思い出す事ができた。

そんな”ハレの日”の演出に、チアリーダーも野球やサッカーと一緒に貢献した。今回のDazzling Styleはベガルタチアリーダーズの「3.11」に密着。被災地の人々を元気にするために活動し続ける彼女たちの姿を紹介すると同時に、被災地の”現在(いま)”を伝えたい。
 
震災キックオフデーの仙台へ
 
午前6時40分、東京発のはやて115号は満席だった。
被災地に向かうボランティア、仕事先への出張らしいスーツ姿の男性、帰省客、そして観光に向かう人たち。車内にはさまざまな理由や事情で東北に向かう人たちがいた。ただみな一様に、これから自分たちが向かう先がどうなっているのかに少なからず不安を抱え、神妙な顔でいるように見えた。
そしてそれは、今シーズン初めてベガチアのメンバーに会うディレクターの塩崎佐恵もまた同じだった。

「電話ではもう何度も話しているけれど、とにかく、実際に会ってみなければ、本当の意味では安心できないから……」

塩崎は今でも、震災直後にメンバーを励ますために電話をかけた際に言われた「わたしは大丈夫ですから、もっと大変な地域で困っているメンバーのために何か協力してあげて下さい」という仲間を思いやる言葉が忘れられないでいた。車中では、今日の振り付けを書いたノートをチェックしたり、外の景色を眺めたり。落ち着かない時間が続いた。

みんな本当に、無事で、そして少しは元気を取り戻しているのだろうか、と――。

午前8時47分、新幹線は定刻どおり仙台駅に到着。プラットホームにはマスコミのカメラが数台並び、取材をする新聞記者の姿もあった。改札を通り抜けた。目にしたのは思いがけない光景だった。

「全然、変わっていないね!」

塩崎は驚きに瞳を大きく見開いた。仙台駅のフロアには土産物屋が整然と並び、カフェや食堂も大勢の人で賑わっていた。壁や天井を見てもどこも壊れておらず、震災の爪あとなど微塵も感じられなかった。そこにはたしかに以前と全く変わらない、杜の都仙台の玄関口があった。

 
すべてに「日常」が戻るまでの道のりは、まだ遠く
 
「中心部の復旧は早かったですね。ビルの壁や窓ガラスが割れて落ちたりもしていたんですけれど、あっという間に片付けられてしまいました。道路はまだ場所によっては歪んでいますが、中心部に関しては、不便を感じる事はないと思います」

車で迎えに来てくれたマネージャーの石田道子はそう話した。

「でもきれいになったのは中心部だけで、少し沿岸部に近づけば道路が陥没していたり、津波に飲み込まれた家や車が瓦礫の山に埋もれていたりしているんです」

石田の暮らす地域に限って言えば、電気の復旧はわりと早かったそうだが、安全確認に慎重さが求められるガスに関してはようやく最近になって使えるようになったそうだ。しかし現在でも、電気やガスばかりか、水すら給水車に頼らなければならない地域はたくさんあり、完全に復旧するまでは気の遠くなるような時間がかかるという。

 
心の底からの「良かった!」
 
午前9時15分、ベガルタ仙台のホームであるユアテックスタジアム到着。試合開始まではまだ5時間近くあるが、開場を待ちきれない、黄金色のベガルタのユニフォームを着たサポーターや、関東方面から大挙してきたレッズサポータが集結し、正午の開門を待ち侘びていた。

ベガチアのメンバーは、すでに会場入りし、リハーサルに向けた準備やウォーミングアップ、打ち合わせを始めていた。開幕戦はハーフタイムではなく、試合開始1時間前のショータイムでの出演だった。

「良かったね!」

控え室に入ると、塩崎ディレクターは思わず叫んだ。涙があふれる。メンバーたちと抱き合い、無事を確認出来た嬉しさがこみ上げた。長い時間、抱えてきた不安からようやく解放された瞬間だった。

「『良かったね!』と言った後は、どう声をかけて良いかわからずになかなか言葉が出てきませんでした。もうただ、抱き合って泣くだけで・・・。本当にこの日を迎えられて『良かった』と思いました。震災で友だちや親類をなくしたメンバーもいる。みな程度の差はあっても、心に傷を負いながら、この日を迎えた。でも、それはメンバーだけではなくて、今日これからここに集まるサポーターや関係者もみな同じなんですね。みな『ここに来れば、少しは元気になれるかもしれない』と期待して、あるいは祈りながら集まってくる。今日はそういう中でのパフォーマンスです。
メンバーには、『お客さんを、みんなの力で元気にしよう。それはきっと、みんなにとっても大きな力になるはずだから、今日はいつも以上に気持ちを込めていこう』と伝えました」(塩崎)

メンバー全員が辛い気持ちや大変な事情を抱えている事は重々承知していた。塩崎はしかし、控え室から出てリハーサル場所に向かう途中で「いつものわたし」になろうと自分自身に言い聞かせた。
辛い気持ちや大変な事を抱えているのはお客さんも同じ。だからこそ余計に勇気や笑顔を届けるはずの自分たちが同情されるようなパフォーマンスを見せては駄目なのだ、と。
アウェイスタンド下にある薄暗いウォーミングアップ場――。

「さ、始めましょう」

塩崎は凛とした声で言うと、一列に並んだメンバー全員に、いつもと変わらない厳しい視線を向けた。

(取材・文/会津泰成)
 
(2回目に続く)
   
   
 
ベガルタ仙台 ベガルタチアリーダーズ
2003年1月発足。ベガルタ仙台のホームゲームでの応援活動を中心に、七夕まつり、青葉区民祭り、光のページェント等、地元の代表的イベントへの出演、クラブのPR活動や社会貢献活動、スポンサーイベントやCM等への出演を通し、「 Cute & Active☆」のチームスローガンの下、地元・仙台を元気に盛り上げている。在仙プロスポーツチームの公式チアリーダーとしては最も歴史があり、現在のメンバー構成は、TOP11名、YOUTH(中学生~高校生) 20名、JUNIOR(小学生)60名。
*チーフディレクター 塩崎佐恵
*ディレクター 鈴木瞳 *マネージャー 石田道子
http://www.vegalta.co.jp/support/cheer-about.html
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