|
東北のチカラ、ベガルタのチカラ |
|
ベガルタは虎の子の1点を守りきり、2011シーズンのホーム開幕戦を勝利で飾った。レッズに勝利したのは、球団創設以来初めてだった。
歓喜に沸くスタンド。抱き合う選手、関係者。ベガチアメンバーもピッチに駆け出し、スタンドに向かって大きくポンポンを振り、サポーターの応援ソングに合わせて踊って応えた。たなびく無数の応援フラッグと声援に囲まれたメンバーたちは、全身にあるすべての力で勝利の喜びを分かち合っていた。
試合後の会見――。手倉森誠監督は激動の「4.29」をこう振り返った。
「自分たちの背負っているものの大きさを感じていますし、エネルギーを使い惜しみすることはできない。自分たちより心に傷を負った人たちがいるので、みんなの希望の光になるためにも、自分たちのパワーを出さなければと思いました。とにかく今日の1勝ほど大きなものはない。この連勝で東北のエネルギーを集結できる。次もホームでの試合なので、一度沈んだ東北を盛り返せるように頑張りたいですし、東北のまじめさ、粘り強さを仙台は前面に押し出して、感動を与えられるプレーをしたい。感動を分かち合い、復興とともに前へと進んでいきたいと考えています」
|
|
それぞれの「4.29」-----試合を終えて |
|
「みんなの希望の光になる。」
「感動を与えられるプレーをしたい。」
ベガチアメンバーも監督・選手と同じように、そうした思いを持ち続け、全力でピッチを盛り上げた。そんなそれぞれの「4.29」を、試合翌日の練習前に3人のメンバーとディレクターに集まってもらい振り返ってもらった。
チーム創設以来のメンバー、高橋美幸――。
「震災でなかなか練習できなかったのは事実ですが、たくさんの人を笑顔にしたいという気持ちは、普段と変わらずに持ち続けていました。でも、やっぱり勝利の瞬間は、いつも以上の感動がありましたし、普段以上に嬉しかったですね。集合が早かった分、朝起きたのも早かったので、家についた瞬間、ぱったりと寝てしまいました(笑)。まさに、全力を使い果たした! という感じでした」
ルーキー、小山田美帆——―。
「試合時間がものすごく短く感じました。家に帰ってから、たくさんの友だちから、祝福のメールや電話をもらいました。そして夜、テレビのニュースで試合の様子を見て、『わたしもあの舞台に立っていたんだ!』とあらためて実感して……。スタンドとの一体感や勝利の喜びが思い出されて、興奮して眠れませんでした」
ユースからベガチア育ちの鈴木華子――。
「とにかくサポーターに笑顔になってもらう事が一番大切だと思いながらピッチに立ちました。そのサポーターから、温かい言葉や拍手をいただいて、逆に勇気をいただきましたし、東北が復興に向けて歩き出している事を実感しました。これからもこの感動を忘れずに、復興の力に少しでもなれるよう、チーム一丸となって頑張っていこうと思います」
縁の下の力持ちとして奔走した鈴木瞳ディレクター――。
「震災直後は、ベガチア自体存続できるのかさえ不安な状況でした。そこから始まって実際にピッチに立ち、『誰かのために』という思いでスタートすることができた。それだけでも、これ以上ないくらい嬉しいと思いました。でも、今回の勝利は格別。勝った瞬間は、感極まりましたね。ベガチアはチームワークの良さが何よりの特徴ですが、昨日はそんなチームの良さを存分に発揮してパフォーマンスできたと思います」 |
|
ベガチアの誇りを胸に秘めて東北を元気に! |
|
現在、ベガチアメンバーはスタジアムでのパフォーマンス活動に限らず、復興に向けた支援活動で東北各地を回っている。避難所を訪れるたびに、「スタジアムは行かれないけど、応援しています!」「絶対に優勝して下さい!」と逆に励まされるという。なかには「将来はベガチアに入りたい!」と言ってくれた女の子もいて、自分たちの活動は間違っていなかったのだと確信したそうだ。
奇跡という言葉はあまり好きではない。物事はすべて何かしらの理由があって成り立っていると思うからだ。しかし、この言葉を使わなければ説明できない事があるのも事実だ。
現在ベガルタはJ1で首位争いをしている。これを奇跡と呼んでは失礼かもしれないが、昨シーズンは14位、過去あわせてもJ1年での間総合順位は最高13位のチームが首位争いを演じていると聞いて驚かない人はいないだろう。手倉森監督の言葉ではないが、いまチームには目に見えない「東北のエネルギーが集結」されている。そして、そんな力のひとつにベガチアもいるという事を誇りに、メンバーはこれからも、笑顔と元気を届け続けるに違いない。 |